シド・バレットも好きでした
The Pink Floyd & Syd Barrett Story (DVD)
ナウオンメディア/2001年
本編49分、おまけ21分
3990円
真面目な美しいドキュメンタリーでした。ロジャー・ウォーターズの思いが伝わってきます。インタビューの合間に流れるシド・バレットの歌は、毎日聞いていた頃と同じにひかれますが、彼と親しかった人達がその音楽や言葉について語るのを聞くと、今日はもっと深く深く美しく聞こえました。ちゃんと歌詞を理解したくなりました。文学のように難しいでしょうが。
もちろんピンク・フロイドが好きで聞いていたからシド・バレットを知りました。70年代の前半、たまたま輸入盤で「The Madcap Laughs」と「Barrett」が一緒になった2枚組を買ったのと、「The Piper at the Gates of the Dawn」を買ったのと、どちらが先だったか忘れました。1967年のピンク・フロイドのファースト・アルバムは、「The Dark Side of the Moon」から聞き始めた人間には、むやみには捨てがたい雰囲気を感じるもののかなり面食らいました。いっぽう2枚組のアルバムは一度聞いたら忘れられない曲ばかりで、夢中になりました。力の抜けただらしないような歌い方で、何にも似ていず聞いたことがないのに、どの歌も懐かしくしみるのです。輸入盤で歌詞カードがないから、鉛筆を握り耳を澄まして一生懸命聞き取ろうとしました。彼が住んでいるというケンブリッジの町を歩くことに憧れました。そして立派になったピンク・フロイドなんかどうでもよくなりました。「Wish You Were Here」が出たときでさえ。でも今は聴きたいと思います。2枚組のレコードはその後CDを買いました。ずいぶん聞いていませんが、聞いても聞かなくても宝物です。
YouTubeに散らばっている動画の多くはこのDVDから出ていたのですね。でも全編通して見てこそ価値があります。ピンク・フロイドは顔で売っているバンドではなかったし、70年代のロジャー・ウォーターズは頬骨の出た長い顔としか思いませんでしたが、このドキュではとてもいい顔になっていて、心のこもった話し方がいいのでした。きっといい人なんでしょう。最初の出会いは8歳くらいだと言います。こんなふうに語ってくれる友達がいるシド・バレットは幸せだと思います。
ピンク・フロイドを離れた彼と一緒に演奏活動をしていたというロビン・ヒッチコックが、おそらく自宅の庭のベンチで、雷の音を気にしながら「雨の日に似合う」「一番好きだ」と言いながらアコースティックギターで「Dominoes」を歌います。字幕を読みながら、まったく違う声なのに歌のやりきれなさと彼の悲しみが溶け合うようで、自分一人で聞いたことしかなくて自分に見えることしか見えなかった歌の本当の姿を見るようでした。いいなあと思いました。おまけの映像には「It is Obvious」も入っています。歌は中断しますが…………。
でもブラーの一人、グレアム・コクソンがシド・バレットについて語るとは思いもよりませんでした。3世代も4世代も違うブラーが?! おまけの映像では「Love You」を歌うのです。驚きです。私がブラーを一度で気に入ったのは、こんなにシド・バレットを好きな人の音楽だったから?と思うのは、不思議な気がしていい感じです。
この数年後、シド・バレットも死にました。翌年には住んでいた家と持ち物や絵が売りに出されました。晩年の姿は、隠し撮りのような映像をついこのあいだYouTubeで見ました。坊主頭のデブ。誰これ? 若い日の面影はみじんもなく…………でもいいんです。別に、今さら、それが何なの。
このDVDは何年も前に恵比寿の写真美術館の売店で見かけました。そのときは手持ちがなくて買えなくてそのままでした。今はもう在庫だけかもしれません。そのうちにと思っていて廃盤になるのが一番嫌なこと。買ってよかったと思います。ところで、本編もいいけれど広告もいいのでした。ビル・ワイマンがブルースを語る「Blues Odessey」とマーチン・スコセッシの「私のイタリア映画旅行」。どちらも欲しくなる内容で、広告まで繰り返し見てしまいそうです。(3月5日)
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