ピーター・フランプトンの変わらない変遷
☆
Peter Frampton: 1968, at the age of 18
(近日中に古いミュージックライフを押入から出してくる予定です。)
ピーター・フランプトンといえば希代の美少年でした。そして「本当はギターが上手いのに、顔が良すぎて実力を認めてもらえない損な人」と言われていました。女の子にキャーキャー言われるアイドルなんかに音楽ができるものか、というわけです。一方「誰からも好かれる人、彼を悪く言う人がいない」ともいわれていました。いずれにせよ、私の頭には18才のフランプトンの顔写真が焼き付いています。なんてきれいなんだと思いました。スケッチブックの画用紙に柔らかい鉛筆で何度もそのハーフシャドウの肖像を写しとろうとしたものです。だからといってハードやハンブル・パイのレコードを買おうと思ったことがないのですが。この雑誌の長いインタビュー記事で覚えているのは「僕は結婚という束縛なしに一生ひとりの女性と暮らしたい」という言葉です。子供にはよほど刺激が強かったんでしょう。私はビートルズに夢中な中学生でした。
The Herd: Paradise Lost (1968)
うわー、イギリスのポップスですねえっ! 夢のような世界です! 1968年と言えば私は小学6年生〜中学1年生。ラジオから聞こえてくるスタックスやモータウンのリズム&ブルーズにしびれていましたが、グループサウンズも好きでイギリスのポップスにも惹かれはじめていましたから、ポップスの本場のこんな曲を聞けば、(顔を知らなくても)胸がわくわくして憧れたと思いますよ。私は今でもずーっと60年代の音楽が大好きです。
60年代ですからドラマーもパフスリーブです。日本の「オックス」みたいですね。そういう時代でしたよね。あとになって後悔しない服装をしているのはピーター・フランプトンだけですね。いくら流行りでもヒラヒラは好きじゃなかったのでしょう。このあとハードを脱退してスモール・フェイセズのスティーブ・マリオットとハンブル・パイを結成します。翌年には何をしていたかを見れば、宜なるかな。(埋込みができない動画のため、ジャンプして聞いてください。(動画には1968年とありますが、Wikiによればこの曲のリリースは1969年7月です。)(H25/5/3: 2年後に来てみたら貼れました。)
Humble Pie: Natural Born Boogie (Aug,1968)
かっこいい! スティーブ・マリオットはお洒落なモッドだと思っていましたが。フランプトンもハードの時とは別人のようにいきいきとしています。ハンブルパイってすごいバンドだったんですね。こうした映像を当時「ビートポップス」で放送したとしても、ヤワな子供の私が受け入れたか疑問ですが、今 YouTube にあるハンブル・パイのライブを聞くとマリオットのボーカルに圧倒されます。(ロッド・スチュアートやロバート・プラントは粗大ゴミですか?)しかしそれだけにハンブル・パイはスティーブ・マリオットのバンドになっていくのでしょう。フランプトンがいつまでもそこに留まらなかったことは後でわかります。
1970年にビートルズが解散すると、大きな星はつかみ所のない4つの星屑になり、音楽の世界は重心を失ったかに見えました。私は何を聞いたらいいのかわからなくなって、そのうち入れ替わるように岡林信康や、そのライブで知ったはっぴいえんどに傾いていきました。イギリスではブリティッシュ・ロックが全盛期を迎えることになり、ちょっと離れると誰が誰だかわからなくて、60年代からいる人以外ついていけませんでした。しかもそのロックがくせ者で……そこでは音楽がよければ容姿など関係ないのです。ハードロックが盛り上がるほど容姿がアレで……才能のある人には幸せな時代でした。だからマーク・ボランが登場すると、世の中も私も友達もかなり盛り上がったものです。その後1974年くらいからラジオを聞く時間ができて、60年代を掘り返しつつ、再び同時代の英米音楽に触れるようになりました。まあ、私はそんな状態でした。ビージーズがディスコ音楽に転向して、フリートウッド・マックがイメチェンして、ホール&オーツがヒットを連発して、沢山の一発屋さんが出没しました。
その70年代半ば、フランプトンは突如舞い戻ってきたのです。
Peter Frampton: Show Me The Way (1976)
冒頭から面白い音が聞こえますが、トークボックス(talk box)といって、ギターの音を口から出しているのです。ギターの音で喋ったりします。
でも本当は「突如」ではなく、彼は音楽をやめてはいませんでした。レコードを出していましたし、アイドル時代とは違ってお客を集めるのも大変でしたが、借金しながら自分の力でライブを続けていたのです。しかしそのライブがだんだん評判をよんで、いつのまにかとんでもないことになっていったので、レコード会社がライブ盤を作ることを決めました。録音が済み、スタジオでフランプトンが「どの曲を入れようかな〜、これは外せないし、こっちも入れたいけど……」と悩んでいると、社長がやってきて録音を聞き、その場で「2枚組にしよう!」と決めてしまいました。フランプトンは驚喜します。2枚組は値段が2倍で売り上げに響きますから、よほどの確信がなければありえません。ましてやライブ盤では。でも鶴の一声ですからね。だから彼は思い通りに作り、その年何百万枚の売り上げを記録することになるレコードが生まれたのでした。(当時はNMEとかRolling Stoneとかよく買っていましたので、そんな記事を読んだ記憶があります。)
Frampton Comes Alive! (1976)
私も買いました。(このジャケットは好きじゃないんですけど。)ハンパじゃない大歓声が感動的で、こちらの気分も盛り上げます。何曲か好きなものばかり聞いていましたが、ひと言でいえばとっても気持ちのいいアルバムでした。「いつでも夏を思い出す」と言う人がいましたが、そういえば私も自分が聞いていた部屋の気持ちのいい夏を思い出します。このアルバムからは次々ヒット曲が生まれ、この頃は年がら年中フランプトンの歌が聞こえたように思います。
70年代に聞いていたのは米軍の極東放送(FEN)で、とくに土曜日の「アメリカン・トップ40」は欠かしませんでした。そういうときは好きなのも嫌いなのも、流行った曲を全部聞いているわけですが、80年代に入って働き始めるとラジオから離れ、自分の好きな音楽しか聞かなくなりました。フランプトンのその後も全然知らないのです。
Peter Frampton: Lying (1985)
いきなり80年代のシンセの音。「1時間前に他の男と会っていたのを知っているんだよ、この嘘つき〜」というつまんない歌詞のキャッチーな曲をすごくカッコよく歌っています。ギターが凄っ。しかしキーボード・プレイヤーが演奏中にやたら派手に動くのは80年代の特徴で、それは鍵盤楽器すなわちシンセサイザーの台頭もしくは浸食の現れでしょうか。80年代の味付けは60年代からのベテラン達にも影響を与え、それぞれが取り入れています。でも80年代のために生まれて来た人達に太刀打ちできたんでしょうか。ヘビメタはヘビメタだし……。ビデオの最後に出てくる物乞いは面白いけど(テレビ番組の有名人らしい)、それは冗談? それとも80年代の現実?
YouTubeが面白いのは、こうして自分の知らない時代の音楽を聞けると同時にコメントが読めることです。古雑誌を探して記事を読むのとは違い、昔からのファンから今初めて聞いた人まで、いろいろな感想があります。「この曲はもっとヒットしてもよかった」「彼は過小評価されている」そういうコメントが目立ちます。(今の私の見立てではベスト10内に5週間? たぶんそれ以下だったのでしょう。)でも80年代には80年代のスターがチャートを賑わしていたはずです。彼らのヒット曲が今どう聞こえても、たとえ何も残っていなくても、ヒットはヒットで、力量や普遍性を計る物差しではないのですからしかたありませんよ。(画質が悪いので小さく埋めました。)
そしていきなり今日です。実はなんと動いているピーター・フランプトンを見たのは今日が初めてでした。私にとって懐メロの宝庫であるYouTubeでウォーカー・ブラザーズを鑑賞中、スコット・ウォーカーとピーター・フランプトンはお顔の骨の形が同じかしら、というふうに連想したからです。「the herd」で検索するとすぐ出ました。それから「peter frampton」を検索すると驚くべきものが……
え、え〜っ、これがピーター・フランプトン?! たぶん今は60才くらい……え、60才?(我が身を省て、ドキッ。)私は取り乱しましたよ。その動画の投稿は2008年。町のまんなかでおじさんが「Show Me The Way」を歌っています。確かにこの声を知っていますが……見物人は多くないし、あまり盛り上がっていないし。おじさんもときどきちょっとバツが悪そうに見えなくもない……とてもいい笑顔だけど……。でも何をやっているの? そこは何処? だいたいどうしてフォックス・ニュースが音楽ライブをやっているの?!?!
どうやら2007年にグラミーを受賞したようです。本当なら1976年に「Frampton Comes Alive!」で受賞するべきだったところを(イーグルズの「Hotel California」に持っていかれて)、30年後の「Finger Print」というアルバムで順番が回ってきました。なにそれ。
翌2008年に再びグラミー賞の授賞式にゲストで参加した折、ニューヨークで街角ライブを行なった(やらされた)のでしょう。(「No」と言えないのかっ。)グラミー賞の会場ではローティーンの(と思われる)娘と一緒。そこでチャラいレポーターにいきなり「ハーイ、髪の毛のないピーター・フランプトンね」なんか言われて「そーだよ」ってさらりと答えるこの人は、えーっ、ほんとうにいい奴なんではないですかっっ?
最後はこのビデオ。
Peter Frampton: Invisible Man (2010)
何度か見ていると、この人はずーっとこんな感じで、ここにあの20代のお顔を貼付けてもおんなじなのじゃないかと思えてきます。後ろ姿の丸い背中はオヤジそのもの。でもこの人はきっと、おなかが出るような生活はしないかわりに、腹筋が割れるまでジムで鍛えることもしない普通の人なんでしょう。ずっと弾いてきたからギターが上手い。ずっと歌ってきたから声が若い。いろいろ苦労もあったけれど、屈託なく笑い、音楽を続けている。いい家族と仲間がいれば、それっていい人生じゃない? あー、なんか好きになっちゃうかも。
すごく上手いミュージシャン達と普通にセッション。あえて歌っている場面のないビデオの、ぜんぜんカッコつけないカッコよさ。(でも実は照明をかなり工夫していて色のきれいなビデオです。)大人だなあ。こういうのを私は「安心して聞ける音楽」と呼んでいます。高品質で安定していて、雰囲気がよくて気負いがなく、その奥には誇りが潜んでいるような音楽のことです。結果、心地よい。
そしたらYouTubeにこんなコメントがありました:Hey all you youngsters out there - this is how it is done. Great vocal, excellent musicians and a story to tell. No dancing, no lip syncing, no fluff....got it? (ここに来た若い連中に言うけど、これは見たまんまだ。すごいボーカル、素晴らしいミュージシャン、そして語るべき物語だけ。ダンスや口パクやミスはいらない。わかった?)「30才未満お断り」と書こうとしましたが、今の時代に音楽の何たるかを知るためには30才未満こそ見るべきかもしれません。
(文中「ビートポップス」と書いたのは60年代にあった土曜の午後のポップス番組です。NETテレビでしたっけ? 大橋巨泉、星加ルミ子、木崎義二の司会で視聴者の投票その他で作るベストテンをやるのですが、うち何曲かは当時珍しかったプロモーション・フィルムを流すのですから、ポップス・ファンにはものすごく楽しみな番組でした。)
……私は2008年の彼の容姿に、ファンでもないのに戸惑いました。(ファンじゃないからかもしれません。)だから1968年まで遡って、こんな文章をダラダラ書いているのです。ではどういう60才だったら驚かなかったかと考えると……何も思い浮かびません。(ミック・ジャガー? 堺正章? まさか。)でもライブを続けているのは、やっぱり嬉しいことでした。
公式サイトを見たら、今年は6月から半年がかりで「Frampton Comes Alive! 35周年ツアー」をやるそうです。そういう企画はな〜んかドンくさい感じがします。新しいアルバムをコンスタントに出しているのに、ファンが望むからやるんでしょう。70年代の音楽シーンのほうが好きだという若い人も多いようです。確かにいい時代だったし、お金になるし。でも60年代にロックした人がベンチャーズになっちゃっていいんですか?(今年だけですよね?)ファンが望むといっても、それを一生引きずるのは、あまり幸せには見えませんけど。この人、いつもそのへんの締めが甘いんじゃありませんかネ。
70年代はレコードとビデオの中にとどめましょうよ。だって彼は生きているんだもの。今振り返れば Frampton Comes Alive! は明るくて元気でやさしさがいっぱいのアルバムでした。それは若いフランプトンの笑顔そのもの。80年代には少々悪ぶったかもしれませんが、お行儀のよい気持ちよさがこの人特有の持ち味ではないかと思います。上のビデオだってそうです。私が求めるとしたら今の彼の、今でも明るくてやさしいオヤジの Comes Alive であって、歯切れの良い気持ちのいいやつを、ファンクでもポップでも新作でもカバーでも聞きたいものです。それがつまんなければそれまでのこと。でもそんなことはないでしょう?
だから昔の歌は歌わなくていいよ。髑髏のプリントなんか着ちゃだめだよ、悪い人達につけこまれるよ。
フランプトンの What A Wonderful World を聞きたいと、今ふと思いました。
おまけ
Humble Pie: For Your Love (1969)
ヤードバーズのヒット曲をアコギでカバー。パーカッションが途中ダレても許す。
Peter Frampton: Baby I Love Your Way (1976)
バラードでイントロを間違える、とってもキュートなピーター。
「But don't フルフル hesitate フルフルフル ....」って、もう犯罪的ですね。このビデオはこんなにボケてるのにiTuensで売っているのですよ。買っちゃおかなっ。
6 件のコメント:
楽しい記事でした。
時代の雰囲気を共有して読ませていただきました。
Lyingの時にはすでにStevie Nicksのオープニングアクトで人気落ちてましたね。
2008年位の映像は最近見て驚きました。
匿名さんと匿名さん、
コメントをありがとうございます!
ずいぶん前に書いたものですが、今も読んでいただけて
とってもうれしく思います。
冒頭の、延期のままの雑誌の写真のこと、時々思い出して
気にするのですが、いいかげんにアップしなきゃいけませんね。
今年こそはっっっっっ!
大変懐かしく感じました。私が買ったレコードは、1枚組です。
フランプトン/ピーターフランプトン第4集
(ショーミーザウエイ)1976年発売です。2008年の動画は
チョットガッカリです。60年代の外国のが50年たって見られる
のは不思議ですね。詳しくわかって有難うございました。
素敵な記事拝見できました事とても嬉しかったです。頷ける事や、教えていただく事、満載で後に何度も読み返す事になりそうです。フランプトンさんの真のファンになったのはクズポンさんがドンくさいっとおしゃてた、現在のフランプトンさんの音楽を体感してやっぱりこの人、努力家で純粋に音楽が大好きで、人間味に溢れてて、そんでもって結果を見せてくれる。現在のフランプトンさんを観れた今回のツアはドンくさくなかったです。( でもおしゃってる意味分かります。) 60,70年代の音楽はやっぱり偉大で 、現在も楽しめる事に感謝。オリジナルはプレミアムが付いて、時間が経つた同一人物が同曲を歌うと人間味をも感じられてフランプトンさんの魅力爆発でした。逆に60、70年代の
ビデオの見方が変わって楽しめる様になりました。因みにアコースティックバージョンのアルバム。超オススメです。
余談ですが、フランプトンさんの息子さんが
前座をされていてお二人のやり取りから
お父さんの一面も垣間見れて ニヤけちゃいました。
コメントを投稿