戦前の日本の交響楽@旧奏楽堂
上野の続きです。5時半をまわってアートプラザを出ると、そろそろおなかも減ってきて、たまには早く帰ろうと思いました。しかし旧奏楽堂まで来ると明かりがともっていて‥‥‥‥門の前には数人の人‥‥‥‥? もしかして? 近くへ行って予定表を見ると、なんと今晩コンサートがあるというのです。芥川也寸志メモリアル オーケストラ・ニッポニカ
音楽監督、指揮・本名徹次
「埋もれていた作品たち 日本の交響作品撰集」
とても興味深いプログラムじゃありませんか。私など絶対に知らない作品でしょう。こないだはわざわざ出て来て空振りでしたからね、これを逃す手はありません。6時から当日売りがあるというので列に並ぶことにしました。手元に残った4500円から3000円で切符を買うと、今度は席取りで並びました。(全席自由席のため。)開場時間の6時半に近づくと100人くらいの列になっていました。
昔の木造校舎をうんと立派にしたような、木造の戸口です。人の流れについて細い廊下を入って左に曲がると赤絨毯の階段を上ります。コンサートホールは2階なのですね。上ったところはホールで、今風の長椅子が置いてありましたが、奥に2脚、古い立派な椅子が並んでおり、しかも隣はスチーム。いい感じでした。
コンサートホールは外からは想像がつかないものです。舞台は小学校の講堂といったところでしょうか。さすがに奥行きが狭いと思いますが、正面にパイプオルガンのパイプが見えました。座席はほどよい階段状で、300席あるそうです。今ふうの簡易な(しかし座り心地のいい)椅子が設置されており、床はリノニウムです。しかし壁、窓、カーテン、天井、シャンデリア‥‥‥‥それらは昔のままで、文明開化の時代のウルトラ・ハイカラな世界を彷彿させます。
列に並んだ甲斐あっていい席を確保しました。腰を下ろしてひと息いてハタと気づきました。「しまった。」実は今日あまり寝ていませんでした。欠伸が、欠伸が‥‥‥‥。
オーケストラ・ニッポニカという原生種のような名前のオーケストラは50名くらいの管弦楽団でした。色はだいたい似ているけれど各人バラバラの衣装というあたり、親しみを感じます。
◆「山形民謡によるバラード」(1941)/作曲・高田三郎(1013〜2001)
◆「ピアノ協奏曲第3番」(1936)/作曲・大澤濤人(1907〜1953)
◆「笛吹き女(作詞・深尾須磨子」(1928)/作曲・橋本國彦(1904〜1049)/作詞・深尾須磨子
◆「組曲 大陸の歌」(1941/43)/作曲・深井史郎(1907〜1058)
「山形民謡」で「バラード」で、構成は「ファンタジー」と「フーガ」ですよ。すごいイマジネーションです。今の日本人が自由だの国際的だの言っても、こういう自由を捨てただけじゃないのと言いたくなります。とはいえ「フーガ」の冒頭でバッハの「大フーガ」を連想したのは私が寝ぼけていたからでしょうか。「ピアノ協奏曲」は第1楽章と第3楽章がピアニスト(野平一郎さん)がカッコよく見えるような激しい曲調でしたが、第2楽章のゆるやかなメロディーが素敵で、もう一度聞きたいと思いました。「大陸の歌」は堂々たる正統派管弦楽だと思いました。この人は音楽で大東亜共栄圏の瓦解を予見したといわれたそうですが‥‥‥‥。
しかし度肝を抜かれたのは「笛吹き女」です。ソプラノの増田のり子さんは水色のドレスからして綺麗でした。音楽の導入部は「牧神の午後」を思わせますが‥‥‥‥圧倒されました。どういえばいいのか判りません。15分ほどの曲ながら、すばらしいソプラノがオーケストラと互角で織りなす「笛吹き女」の詩。それは古風な候文で、その曲は自己模倣ジャポニズムとは無縁。こんなのは初めてです。解説によれば橋本は歌曲にも力を入れた作曲家で、この曲では「日本としては新しき試みなる朗読調式の作曲法による」とのことです。なんとかもう一度聞けないものでしょうか。
所々でウトウトしたのが残念でしょうがありません。いずれもめったに聞けない曲で、レコードやCDがあろうはずもなく。せめて「ぜひまた演奏してください」とアンケートでお願いしました。オーケストラ・ニッポニカはこうした日本の交響楽を積極的に演奏し、内外の「埋もれた音楽」に光を当てること(さらにアジアとの交流)を活動の柱としているそうです。いや〜、お見事でした。
さて、旧奏楽堂は台東区が管理しており、毎月たくさんの演奏会が行なわれているのでした。芸大つながりをはじめ、この建物の歴史と機能と雰囲気をじゅうぶんにいかしたものばかりだと思います。◆「芸大生による木曜コンサート」
8月21日(木)はヨーロッパの宗教音楽で、声楽。
◆「日曜コンサート」も芸大生によるもので、2時〜と3時〜の2回。第1、第3日曜日はチェンバロ、第2、第4日曜日はパイプオルガン、第5日曜日は「特別コンサート」。
こうした毎週恒例の演奏会は建物の入館料のみで聞くことができます。
単独の演奏会で私が興味を持つのは>◆8月31日(日)午後2時〜/3時〜(日曜コンサートの第5日曜版)
「ヘンリー・パーセルのオード」と題するバロック音楽の演奏会。合唱と、古楽器を使う管弦楽のグループの演奏(入館料として300円)
◆9月24日(水)午後6時45分〜
「奏楽堂 バロック・シリーズ 第50回/アンサンブル・コルディエ定期演奏会 第14回」。チェンバロ、バイオリン、ビオラ、チェロのアンサンブルで、演目はバッハの「フーガの技法」です。(3500円)
◆9月20日(土)午後2時〜
「奏楽堂特別展 日本の作曲会シリーズ11/中田喜直展 レクチャー・コンサート
中田喜直の歌は日本人なら誰だって大好きです。合唱、中田喜直夫人のお話、ピアノ独奏という何とも楽しそうなプログラム。(1500円)
この建物が時の勢いで壊されなくてよかったと思います。こうした、何か「人間サイズ」の空間で、いい音楽を身近に楽しむ機会があること、それこそが「文化」だと思います。今晩のように素晴らしい「埋もれた作品」を聞かせてもらえるのも、こうした小さなホールならでは。カネにあかしたギンギン立派なホールに著名な外人ばかり呼ぶのもいいけれど、高い料金で同じ演目ばかりじゃね、そういうのはね、食傷です。私はまず自分の好きな音楽を聞きたいし、それをやってくれるのが日本の演奏家なら、お金を払って聞きにいくことは一つの音楽への参加であり、聞き手としてとても大事なことだと思うのです。(でもエマ・カークビーは好きです。エヘヘ。)
これからも折にふれて予定表を見て、いい演奏会があれば聞きにいきたいと思います。(8月3日)
● 旧東京音楽学校奏楽堂 建物の見学やコンサートの案内など
2 件のコメント:
ガレットのコメント返しありがとうございました。
それを拝見しに寄ったところすっごく偶然な記事が!
私達夫婦も日曜日は上野三昧でした♪
まず不評の(笑)テーブルウエアを見学→奏楽堂でチェンバロ鑑賞→アートプラザで休憩→くずぽんさんが書かれていたピンバッヂを眺め→すずらんを買うかどうか思案→次回に延期→藝大美術館でバウハウス展が終わってしまい落胆(調べてから来なさいって話ですが)→京橋へ移動してブリヂストン美術館で主に印象派鑑賞
こんな感じだったのですよ。
かなーりリンクしてますね☆
ミュージアムショップは私もゆっくり見たかったのですが、すんごい混雑で断念。
ガシャポンも美術館シリーズを集めているのですが、アートプラザには石膏系しかなかったので残念。
夕方からは奏楽堂でそんな素敵な催しがあったなんて知りませんでした。
奏楽堂、いいですよね。私も大好きです♪
暑くて暑くて、先週まるまるダウンしました。
すごいコメントに驚いて、単語がいくつか頭に浮かぶのですが、なにしろボーッとしていてまるで文章にならず、遅くなってすみませんでした。
ほんとに同じコースでびっくりしました。そんなことがあるんですね。お皿の展覧会はすごく賑わっていました。私はボロクソにしちゃいましたが、きっとお二人なら楽しみ方を心得ていたでしょう。ぐずぐずしないで家を出ていれば、会場で合流できたかもしれないのにと思いました。
奏楽堂はいい場所でした。私もパイプオルガンやチェンバロの演奏を聞きたいと思います。上野へ行くときには計算にいれておかなきゃ嘘ですね。「対決」の展覧会も終わりに近づき、明日あたりまた博物館に行くつもりです。
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