グロリア・ゲイナーの 〈I Will Survive〉
〈Young@Heart〉の映画の話を知り、YouTubeのビデオを見て涙して、あらためてグロリア・ゲイナーの〈I Will Survive〉を聞きたくなりました。実はお婆ちゃんたちの歌ではすぐに題名が出てこなかったくらい、長いあいだ聞いていませんでした。iTunes Music Storeで試聴して、いい声だなあと聞き惚れました。当時の私の印象では、グロリア・ゲイナーはそれほど美人ではないし、カバー曲の多い二番どころの歌手でした。でも今聞くとすごく上手くて、カバー曲でも自分の物にして歌っていたのだとわかりました。そしてお買い物を済ませると、次はこちらに見とれました。
ご注意: すごく音が大きい動画です。音量を最小に下げてから開始してください。
(見えないときはこちら)
(なんじゃ〜このクリップ〜と思うかもしれませんが、MTV以前のプロモーション・フィルムは超大物スター以外こんなもんです。)調べると〈I Will Survive〉は1978年10月発売。翌年にかけてアメリカ、イギリスをはじめ世界中でナンバーワンの大ヒットでした。日本でもある年代以上なら誰でも聞いたことがあるでしょう。歌の中身はだいたいこんな感じではないかと。
はじめは恐かった。凍りついた。
あなたがいなきゃ生きていけないと思っていた。
でも毎晩毎晩、あなたが私にどんな仕打ちをしたか考えて、
私は少しずつ強くなって、どう進めばいいかわかったの。
それなのに今日、帰ってきたら部屋にあなたがいる。
どこからか戻ってきて、悲しそうな顔をして。
こんなことになるとわかっていたら鍵を替えておくんだった。
キーを置いていってもらえばよかった。
さあ帰ってよ。出ていって。あなたなんかもう歓迎してないんだから。
別れを切り出して私を苦しめた人じゃなかったの?
私が粉々になっていると思った? 臥せって死んでしまうと思った?
違うのよ。私は生きるの。愛さえ知っていれば人は生きていける。
私には私の人生があるし、愛も持っている。だから一人でやっていくの。
駄目にならないように力をふりしぼらなきゃならなかった。
ぼろぼろの心をつなぎ合わせようと必死だった。
夜がくるたびに自分を哀れんで泣いた。
でも今はまっすぐ顔を上げている。
だから別人に見えるでしょう。
もうあなたに恋して鎖に繋がれていたときみたいな子供じゃない。
あなたは私が待っていると思って寄ってみたくなっただけ。
でも私の愛は私を愛してくれる人にとっておくんだから。
だから帰ってよ。出ていって。
‥‥‥‥‥‥‥‥
私の人生では縁のない情景なのに、私の前世が反応するのでしょうか。こうして歌をきき初めて歌詞を読んで、歌の中の女の子がどれほど苦しんだか、そして一生懸命生きて前へ進もうとしている姿が目に浮かび、胸がいっぱいになって、ばかみたいにまた泣きました。相手を前に毅然と「I will survive」を繰り返しながら、本当はまだ少し迷いがあって自分に言い聞かせるようでもあり‥‥‥‥こういう機微がグロリア・ゲイナーの歌から伝わってくるからです。すごいと思います。(追記:訳の終わりのほうに誤訳が露呈。現在修正済み。文末の「追記」をご参照ください。6月12日)
英語の授業では「will」の文を「未来形」と習いました。そうなんですが、でもその本質は「意志」であって、「I will survive」とは「私は将来surviveするでしょう」ではなく「私にはsurvive する意志がある」なのだ、ということが彼女の力強い歌によってすごくよくわかります。この歌は何よりも「意志」の歌、「女の意志」の歌だったのですね。自らの意志をもって「ノーと言える女」、すごく真面目な歌です。だから女達が「何故?」と問い直しはじめた時代、世界中の人達の心に迫ったのでしょう。YouTubeのコメント欄には「この歌は当時の女達のアンセムだった」という書き込みがありました。(anthem ‥‥‥‥ う〜ん、辞書を引いてくれ!)一つの歌が一編の小説一本の映画と同じ力をもって多くの人を励ましたのだと思います。
1970年代は60年代末から続く「女性解放運動」(women's liberation)(the emancipation of women ともいうらしい)の時代でした。「自立する女」が時代の象徴であり、新しい女を模索するような映画、小説、音楽‥‥‥‥たくさん描かれました。夫に若い女ができて離婚させられた中年の奥さんが次に出会った理想的な男のプロポーズを「断る」というだけのハリウッド映画が、何故断るのか不明のままスバラシイと絶賛されたような時代でした。時流に乗る人達には「女が断る」ことが画期的で、「ノー」と言うだけで「時代の女」だったのかもしれません。
この曲を聞きながら思い出したのがヘレン・レディーの「私は女(I Am a Woman)」でした。「やろうと思えば何でもできる。私は強い。私は無敵。私は女〜♪」という、まさに時代の歌でした。でも今この歌を合唱しようと思う人はいないでしょう。誰も歌っていないし、陳腐です。ある意味で、そこで歌われたことはその後の女達の社会進出により現実の世界である程度実現してしまったからかもしれません。80年代に入れば、映画「9 to 5」のように、女の出世がテーマになっていきました。
いっぽう「I Will Survive」が描く情景は、いくら社会が変わっても個人で解決するしかない恋愛問題であり、その点で普遍性があります。同じ情景は16才の女の子にも、37才のキャリアウーマンにも、62才の主婦にも、いつでも起こりえます。だから2008年に私が聞いても同じ強いメッセージが伝わってきます。現在MTVを見ている若い女の子達がこの歌や歌詞をどう思うかわかりませんが、彼女達を励ます歌はあるのでしょうか。今のMTVはポルノまがいといわれるほど性の誇示ばかり、一転女々しいバラードばかり。ポップスは後退したんでしょうか。
ところでグロリア・ゲイナーは今どうしているかと思い、探してみると‥‥‥‥ありました。 ☟ ぜひクリックしてください。
● グロリア・ゲイナー・ドットコム
す、すばらしい! 30年歌い続けた貫禄。堂々とした姿。声は低くなりましたが張りがあって、いっそう見事な歌いっぷり! 聴衆は私くらい〜上の年齢の人ばかりのようですが、懐メロを喜んでいるだけとは思えません。「Anthem」なんですよ。
ライブの彼女はある言葉を前に、勿体をつけて、誇り高く大仰に鼻をこすって見せました。それはyoung@heartのお婆ちゃんの歌でみんなが一斉に「イェーイ!」と呼応したのと同じ「I grew strong」という言葉です。それがこの歌のもう一つの核でしょうか。「強く成長した」ということをどういう日本語にすればいいのかわかりませんが。生きていくには、困難を前にして誰でも成長して強くならなきゃいけないし、そして賢く判断して先へ進まなければならない。それは何才になっても同じです。最初は失恋から立ち直ろうとする女の子の歌であったものが、恋を通した人生の歌へ、歌もまた成長したのですね。だからこそ彼女は30才でも50才でも今も将来もこの歌を歌い続けるし、そういう彼女の姿がまた人々を励ますのでしょう。私は励まされましたよ、ほんと。(だからもっと上手く書きたかったのに、トホホ‥‥‥‥)
♪ ← www.lyricdownload.com |
↑ ここに英語の歌詞を入れたんですが、消えてました。↓
お手数ですが、ここからジャンプして見に行ってください。(2011/4/11)
お手数ですが、ここからジャンプして見に行ってください。(2011/4/11)
公式サイトのライブ(2006年9月)、最後まで聞きたかった向きはこちらをどうぞ!
↑ ここ見れなくなってますね。↓ 頭と尻尾が切れていて残念ですが、同じライブが現在こちらで見れます。(2011/4/11)
ブロブ内関連記事
● ロックする老人 5月8日付(前のページ)
● ITMSの〈I Will Survive〉 5月10日付 次のページ)
(追記:6月12日)
● 洋楽雑記帖 A Notebook of Western Music
多々野親父さんのブログ。グロリア・ゲイナーとこの歌の客観情報、歌詞、訳を見ることができます。
実は私、歌詞を読みながら「and expect me to be free」がよくわかりませんでした。そこで後から他の人の訳を見てまわりました。多々野親父さんの原文は「And so you thought you'd just drop by, And you expect me to be free.」で、訳は「‥‥‥‥(無断引用禁止ですが連絡手段がないのです)」です。「so you thought you'd just drop by」とは聞こえませんが、ハアなるほどと思いました。
こちらも必見ですよ。最高にカッコイイ訳、シビレました。数ヶ国語に堪能な方だそうです。さすがです。
● L'Oneiropompe 夢先案内猫さんのブログ。
明日は日本語ペラペラのPさんと会うから、ここの所をちゃんと教えてもらおうと思います。
(追記:6月15日)
はい、ネイティブのPさんに教わりました。
--so you felt like dropping in, and expect me to be free
free の意味はいろいろあれど、この free は「 Are you free now? 今ヒマ〜?」の free だったのですね。ですから歌詞の意味は「私がヒマだと期待して」となります。さらにニュアンスとしては同じ「ヒマ」でも「あなたのために時間を空けている」ような種類の「ヒマ」の感じだそうです。ナルホド。ですからそういう「ヒマ」を期待してフラリとやってきた you に対して 「私、ヒマ人じゃないわよ、もうおことわり」というわけですね。タハッ。理解しました。そして、その感じで上の訳を訂正しました。(「意志」を語っておきながら私の「訳」の文章では意志の力を感じないなあと思います。読んでしまった人は、ぜひ夢先案内猫さんの訳を読み、かつ歌の強さで補ってください。)
長いこと誤訳をさらして、この間に見てくださった方、すみませんでした。(笑っちゃったでしょうね。ハズカシ。)
どうかもう一度、訂正後の文を見に来てくださいますように。
(追記:2011年7月)
歌の訳(というより内容ですが)の部分を少し修正しました。「寄ってみたくなっただけ」という所です。
(music)(gloria gaynor)(i will survive)
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(追記:6月12日)
● 洋楽雑記帖 A Notebook of Western Music
多々野親父さんのブログ。グロリア・ゲイナーとこの歌の客観情報、歌詞、訳を見ることができます。
実は私、歌詞を読みながら「and expect me to be free」がよくわかりませんでした。そこで後から他の人の訳を見てまわりました。多々野親父さんの原文は「And so you thought you'd just drop by, And you expect me to be free.」で、訳は「‥‥‥‥(無断引用禁止ですが連絡手段がないのです)」です。「so you thought you'd just drop by」とは聞こえませんが、ハアなるほどと思いました。
こちらも必見ですよ。最高にカッコイイ訳、シビレました。数ヶ国語に堪能な方だそうです。さすがです。
● L'Oneiropompe 夢先案内猫さんのブログ。
明日は日本語ペラペラのPさんと会うから、ここの所をちゃんと教えてもらおうと思います。
(追記:6月15日)
はい、ネイティブのPさんに教わりました。
--so you felt like dropping in, and expect me to be free
free の意味はいろいろあれど、この free は「 Are you free now? 今ヒマ〜?」の free だったのですね。ですから歌詞の意味は「私がヒマだと期待して」となります。さらにニュアンスとしては同じ「ヒマ」でも「あなたのために時間を空けている」ような種類の「ヒマ」の感じだそうです。ナルホド。ですからそういう「ヒマ」を期待してフラリとやってきた you に対して 「私、ヒマ人じゃないわよ、もうおことわり」というわけですね。タハッ。理解しました。そして、その感じで上の訳を訂正しました。(「意志」を語っておきながら私の「訳」の文章では意志の力を感じないなあと思います。読んでしまった人は、ぜひ夢先案内猫さんの訳を読み、かつ歌の強さで補ってください。)
長いこと誤訳をさらして、この間に見てくださった方、すみませんでした。(笑っちゃったでしょうね。ハズカシ。)
どうかもう一度、訂正後の文を見に来てくださいますように。
(追記:2011年7月)
歌の訳(というより内容ですが)の部分を少し修正しました。「寄ってみたくなっただけ」という所です。
(music)(gloria gaynor)(i will survive)
6 件のコメント:
はじめまして。「洋楽雑記帖」を運営しております多々野親父と申します。
この度は私の記事を取り上げていただき、ありがとうございました。
引用につきましては、当該記事のリンクを張っていただければ問題ないと考えておりますので、宜しくお願い申し上げます。
貴記事にありました"Free"について、私は「どのようにしてもいい状態」という彼側からの視線を強調して訳しています。それだけ彼女が虐げられていた、という意味合いも込めているのですが、いかがでしょうか。
なお連絡先についてなのですが、スパムや誹謗などブログを通して人間関係を構築できるメリットを相殺して余りあるデメリットを感じている為、mixiを通してでしかやりとりをしないという運用を行っています。今後もこれを変える考えはありませんこと、ご理解頂ければと存じます。
多々野親父さん、コメントをありがとうございます。
連絡手段がわからずこんなやり方で引用をしてしまい、申訳ありませんでした。多々野親父さんが見つけてくれて、思いがけず承認をもらえて助かりました。
「洋楽雑記帖」ほどたくさんの歌の解説と訳が載っていたら多くの人から頼りにされて、その分私などにはわからないご苦労がおありなのですね。でもこれをご縁に、困ったときにはまたよろしくお願いします。
前述のfreeは、単純に、
彼が私をすてたこと &
他に誰とも付き合っていない
つまり、彼氏のいないフリーな状態
といういみではないでしょうか
>匿名さんへ
コメントをありがとうございます。たいへん長いこと気づかずにいて失礼いたしました。どうかお許しください。
そうですね、そうかもしれませんね。答えは一つと限らないんでしょうね。
今度は私もそういうニュアンスを思いながら聞いてみたいと思います。
はじめまして。
先ほどNHKTVでI Will Surviveを聴いて、初めてこの聞きなれた曲の題名を知り、日本語の歌詞を読んで感動。
検索してこちらへ来ました。
歌詞について私と同じ感受性を感じさせるコメントを拝見して、ちょっとうれしくなりました。
Yさんへ
コメントをありがとうございます。
気持ちを共有できてとってもうれしく思います。
NHKで曲がかかったんですか。実はブログの解析を見て昨晩11時頃からすごい数のアクセスがあり、何があったんだ???と驚いたんです。おかげで理由がわかりました。懐かしくなった人や新たに知って気になった人が沢山いらしたんでしょうね。
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